怪電話(結)-冬講日記(37)

「バリウム検査で胃に影が映りました。精密検査に行ってきますので、今回の話は無かったことにしてください」。

ヘッドハンター氏に、彼は最終通達しました。しきりに心配するハンター氏。彼はもうひとつだけ、秘かに不審に思っていたことを調べてみたくなりました。

「ご心配ありがとうございます、S田さん!、あの時も、今回も」。

彼は二十数年前に辞した職場で、最後まで面倒を見てもらった「S田」氏に、ハンター氏の声色がそっくりだと気づいていたのです。

「ふふふ、お人違いじゃないですか?、××さん!」。

そう言い終わるが早いか、ハンター氏の電話が切れました。笑い声まで「S田」氏にそっくりでした。

翌日彼は、やはり気になって、ハンター氏が指定した5つの電話番号を呼び出そうとしてみました。

「お客さまのおかけになった番号は、現在使われておりません」。

すべてつながらなくなっていました。音声案内が空しく響いていただけでした。

後日談。彼からあらましを聞いた者の7割が、「ものは試しに契約交渉してみたらよかったのに」と言ったそうです。

小生には、彼が交渉してみなければわからないほど、鈍感だと思えません。

3割が「ヘッドハンティング詐欺だろ。狙われてるで、気ぃつけや」だったそうです。

これまた小生には、とっくの昔に彼が認識済みと考えます。

彼は黙して語りませんが、何かと彼の身辺騒がしかった時期に、存亡危急の情報を伝えてくれた「S田」氏、懐かしくて、ありがたくて、決して無下にはできなかった彼だったのだろうと思います。

彼はそういう、義理人情に厚い奴です。

石川数学塾大阪
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