職-冬講日記(30)

男は仕事を捨てたいと思っていました。重圧に押しつぶされそうになっていたからです。

うまい具合にタイミングをつかんで、男は仕事を捨てました。

全て放り出して、まるっきり違う、全く新しい仕事をしたいと思い、そうしました。

しかし、奇妙なことに気がつきました。

いつのまにか、あの圧殺されそうな仕事に、戻っていこう、戻っていこうとする己がいました。

仕事捨てて三年後、男は仕事に戻ろうとしました。

ところが仕事のほうは、男の身勝手を許してくれませんでした。

男は大変な苦労をして、業界に復帰し、今に至っております。

ごくたまに、男は「引退したい」と思う年になりました。

しかしながら、仕事をできることの喜びが、男を思いとどまらせています。

男はいつまで仕事を続けるつもりなのでしょうか。

もはやおそらく、わからなくなっているのかもしれません。

それでも男は、魂の叫びとでもいうべきものに、今日も突き動かされて、出勤します。

この業界を見渡すと、そこらじゅうにたくさん、掃いて捨てるほどにいる、一人の男として。

石川数学塾大阪
学園前教室・杉浦