川-冬講日記(6)

久しぶりに明日香村を歩いてきました。

飛鳥川をさかのぼり、女綱、栢森、「さらら」さんまで、てくてくと。

稲渕、男綱を少し登って、久しぶりに「飛び石」へ。水流渦巻くと、水没してしまう石橋です。

橋のほとりに、万葉歌碑があります。

明日香川 明日も渡らむ 石橋の 遠き心は 思ほえぬかも (巻十一 2701)     

飛び石をピョンピョン飛んで、向こう岸の想い人に会いに行く…恋の歌です。「会いたいな」と思っているだけですと、心理的な距離が、ほとんど無限大に大きいのでしょうが、飛び越えてしまえばほんの一瞬ですね。

『万葉集』はたいへん素直で、何かにつけてストレートで、わかりやすいです。

こんなふうに山の中では、飛鳥川が隔てるものといったら、せいぜい恋人との物理的な距離だけです。ほんの少しのディスタンスです。

川を下って嶋庄へ。蘇我馬子が「嶋大臣」となってから、天智・天武の離宮を経て、草壁皇子の居館まで。飛鳥川は祝戸で冬野川と合流して、約一世紀の長きにわたり、政治の季節を見続けました。

川を隔てた向こうには、橘寺、川原寺…。「彼岸」であります。

何事もなく茫洋と流れているだけの川に、あれこれ思いを致すのは、そこに群がってきた人々だからでしょうか。

川は悠久の時を見続けます。

石川数学塾大阪
学園前教室・杉浦