師匠の思い出(その4)

モグラ生活が長引きますと、お日様がだんだんとオックウになってきます。一週間に一度のゼミが、癒しの場になってきます。

そんなある日のゼミにて…、私はとんでもないことに気づきました。

黙々と一生懸命勉強しているはずのゼミですが、意外と不規則発言が多かったのです。

先輩研究者が「我が国の大正時代における社会教育官僚による『社会』の発見」(←題名だけでも理解するのに一苦労ですね)について報告されている時でした。

たまたま横に座っていた師匠が、何やらレジュメの一ヶ所に反応しました。

「そやねん。大ブルジョワジーやったんや、わしの祖父さん。けどなぁ、遺産が一銭も残ってへんねん。なあ、杉浦~。なんでやねん?」

「先生、遺産なんてアテにしちゃいけませんよ。」

「けどなぁ、コレクションまで残ってんねんで。所有権、わしにはないけどな。」

「じゃあ、先生こそ、ここにいる弟子たちにガッポリ『美田』を残してくださいね。」

「買いかぶりすぎや。一番アテにならんの、たぶんわしやで。」

「え?そうだったんですか?」

いつのまにか大声で談笑してしまいました。「先生!杉浦君!静粛に願います!」はい、師匠と共に先輩研究者から睨みつけられました。

どうやら師匠はレジュメの先読みをしていたらしく、たまたまその片隅に、明六社のメンバーでもあった開明派インテリゲンチャにして、大阪の大手新聞社社主でもあったおじいさんの名前を発見し、懐かしさのあまり騒ぎ出してしまったらしいのです。

師匠はまるで子供のようにハシャぐ人でもありました。

(続く…)

学園前教室・杉浦